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北村 紗衣『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』読了

北村 紗衣『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書』東京:白水社,2018.


シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書
北村 紗衣
白水社
売り上げランキング: 228,106


 連休でなんとか読了しました.
 僕自身は特にシェイクスピアについて一般人以上に詳しいわけでもなく,それどころか英文学史などもそんなに知らないので,この本を真っ当に批評できる立場では全然ないのですが,とりあえず感想文ぐらいを書いておこうと思います.




 この本は,シェイクスピア作品がイギリス文学の「正典」として確立されるまで,女性受容者ないし女性ファンが果たした役割はなかなか表面化しにくいものの,シェイクスピア作品の読書記録(残された書物などへの書き込みや書簡などでの言及)から,実は女性が「正典化」に果たした役割はかなり大きいということを示すために書かれたもの,と要約できるでしょうか(間違っていませんように).シェイクスピアの作品自体にも女性観劇者を意識したものが見受けられる上,時代が下がって行くと有名・無名の女性たちの読書記録などから,かなり多くの家庭で「解釈共同体」が形成されており,その中で女性も積極的にシェイクスピアを楽しんでいる痕跡が見つかり,時にはシェイクスピアの校訂・出版作業にもかかわっていること,さらにクライマックスは現代のコミケのコスプレを彷彿とさせるシェイクスピア・ジュビリーで,そこでは著者の筆致からすると,ほとんど参加者が女性ばかりという錯覚すら覚えるほど,女性参加者の記録が豊富に残っており,以降18世紀に「正典」として確立されるのに,女性受容者の影響が相当に強かったことなどが,この本で扱われています.
 この本の目的は有名・無名の女性読者(もしくは女性解釈者)の存在を明らかにし,その正当な位置に置きなおすことではありますが,情報源としても大変勉強になります.卒業論文などのテーマはこの本から無数に見つかると思います.例えば,この本で扱われている「有名」であったり「著名」であったりする女性作家は,もちろん僕のような門外漢にはこの本がなければ一生名前すら知ることはなかっただろうと思いますが,おそらく概論などでもそんなに触れられることはないと思います.例えば p.114-128で扱われているマーガレット・キャヴェンディシュ(Margaret Cavendish:<https://en.wikipedia.org/wiki/Margaret_Cavendish,_Duchess_of_Newcastle-upon-Tyne>)が 1666年にSF的小説(!)『光り輝く世界』を書いているというすごい記述(p. 125),p.159のゴチック作家クララ・リーヴ(Clara Reeve:<https://en.wikipedia.org/wiki/Clara_Reeve>)も初めて知って,ゴチック作家といえば……と思ってwikipedia記事をひっくり返したら案の定メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』に影響を与えたという記述を見てまたびっくりです.また, p.171-174 で扱われるシャーロット・ラムジー・レノックス(Charlotte Lennox, née Ramsay とあるので,シャーロット・レノックスが普通の呼び名で,旧姓ラムジーが添えられるのが普通のようです:<https://en.wikipedia.org/wiki/Charlotte_Lennox>)も初めてみました.こういった作家たちの著作も少し日本語で読めるとありがたいのですが,北村紗衣さんのこの本に触発されて研究を始める人がでること(そして翻訳がでること)を望みたいです.
 北村紗衣さんのこの本での最大の貢献は p. 174-184で詳述される,メアリー・リーヴァーという女性の発掘で,北村紗衣さんのシェイクスピアのフォリオの調査中に偶然発見された手紙から,この女性がシェイクスピア作品集の校訂作業に関わっていたことがわかり,資料の追跡から校訂の関係者や校訂作業までが明らかになったところで,この部分は国際的に重要な発見ということになると思います.その他の女性読者についても,詳細な先行研究の消化と読書記録の調査を踏まえて詳細に紹介されています.ここは本当にすごい情報量となっていて,読むのにはこちらも一定程度集中力を要求されます(もともとはもっと長かった文章を出版上の都合から短く圧縮したのかもしれないですね).
 ちょっと気になるのは頻繁に出てくる「解釈共同体」という用語です.大変便利な用語だと思いますが,実際にある家庭や仲間内での「解釈共同体」の作業は,この単語一つで表せるようなものでは多分ないはずなので,例えば p. 64 で「……知的活動に関心がある女性にとって家庭環境は重要だった。女性の観客や読者は家庭内で小さな解釈共同体を作っており,その解釈戦略に沿って本を選んでいたようだ。」(下線メレアグロス) とあると,この「解釈共同体」「解釈戦略」という表現が単純作業のように見えてしまうので,この用語を使う場合にはもう少し言葉を補ったほうがよかったかもしれません(これも多分ページ数を圧縮する関係上そうしなければいけなかったのかと想像します.まあ読んでいる間に慣れますね).
 内容についてはあまり多くを語る資格はないので,この辺でどうでもいいことを書くことにしますが,まず,いくつかページ数を示したクロスリファレンスがあったほうがいいかと思いました.たとえば「……であげた例からわかるように」(p. 37) などのところなどですね.何箇所か他にも前のページをめくりながらどこに書いてあったかと探したところがあったと思います(がメモを忘れた……).誤植で気がついたのは p.44 「このレスリンク、見ようよ?」で,もちろん正しくは「レスリング」だと思います.これもどうでもいいことですが,読んでるのかどうかも怪しい「知識人」が帯で推薦などをしていなくてよかったと思いました.ただ,「追っかけから始まる……」は,やっぱりちょっと違うような気もします(がこれも著者のせいではありませんね……).これでもかと詰め込まれた文献表などは丁寧に作ってあって,URLなどはちゃんと参照年月日(おそらく最終確認日)がちゃんと書いてあり,親切設計です.学生が文献表を作る時に手に取っても安心です.価格もこの分量の書籍にしては実に良心的な安さといえるでしょう.
 最後に,まとめでもなんでもない感想で申し訳ありませんが,この本は本当に読みがいがある本の一つだと思います(全然紹介できる能力のない人間が言うのもなんですが).シェイクスピアはもちろん,ジェンダー論に関心がある方にはもちろんですが,意外と大いに参考になるのは,現代の日本のサブカル研究(初音ミクその他のニコニコ動画でのムーブメント)ではないかと思います.ですから,英文学学徒以外の方々にも大変おすすめだと思います.ただ,シェイクスピア自体の概説を兼ねているようなものではなく,独立した研究書なので,シェイクスピア自体については最小限の記述になっているため,まったくシェイクスピアを読んでいないとすると,読み通すのはきつい本でしょう.読まれる方は,シェイクスピア自体をこの機会に翻訳ででも通し読みしておくのがいいと思います.もちろん,英文学概論でうっすらこの辺りを知っておくなどすると,より楽しめる本になると思います.僕はほとんど知識はないものの,学部生時代にいい加減に出ていたシェイクスピアの購読をおぼろげに覚えていたので,だいぶ助かりました.今更ながら,やっぱり教養は大切だとわかりました(僕自身は文学研究を擁護する際に「教養」という言葉を使われるのは嫌なのですが). 


追記:読み返してみるとやっぱり変な感想文ですが,とりあえずこのまま投稿することにします…….


【2018/05/11 20:13】 COMMENTARII DIURNI | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) | 記事修正

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