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ラテン語入門 14 規則動詞の直説法現在時制能動態 (1) 第 2 変化 (ē 幹) 動詞と動詞の分析


 書き直しました

 ラテン語の動詞は,主語の人称に応じて語尾を変化させます.大半の動詞は,5つのタイプの規則的な変化をするので,それらは規則動詞とよばれます.若干の,しかし重要で使用頻度の高い,やや独自の不規則な変化をする不規則動詞もあります.
 ここでは,ラテン語動詞の変化の特徴をとらえるために,五つの規則動詞のうち,一番見通しのいい動詞,第2変化動詞の直説法・現在時制・能動態を例に見て行きます.とりあえずは最初の動詞です.

第2変化動詞 videō「見る」直説法現在時制能動態の変化表
  単数 複数
一人称 videō 「私は見る」  vidēmus 「私達は見る」
二人称 vidēs 「君は見る」 vidētis 「君達は見る」
三人称 videt 「彼(彼女,それ)は見る」 vident 「彼ら(彼女ら,それら)は見る」

 法・時制・態については,また回を改めて見て行くことにしましょう.今は,直説法現在時制能動態は,「現時点である行為をする」あるいは「している」という意味であると理解してください.上では「私は見る」で通していますが,「私は見ている」でももちろんかまいません.人称については,自分と相手と第三者がそれぞれ一・二・三人称で,それぞれに単数・複数がありますから,計六つとなります.ラテン語の動詞は,それぞれの時制で,この六つの人称で変化します.
 上の表の,左側一段目,一人称単数の部分を見て下さい.日本語では,「私は見る」にあたるものが,ラテン語では,videō の一語だけで,「私は見る」という意味を表しており,その下の二人称単数の部分では,vidēs の一語で,「君は見る」という意味が表されています.どちらも一語で,「私はみる」「君は見る」といった,他の言語なら二語になりそうなものを表しています.この videō, vidēs を比較すると,違いは語尾の部分の -ō -s,それからその直前の母音 e と ē にあることがわかります.実はラテン語では,語尾の部分の -ō -s によって,動詞の主語の人称を表しているのです. -ō が「私は」で, -s が「君は」となります.この語尾を除いた部分 vidē- あるいは vide- が「見る」という意味をになっています.
 六つの人称の語尾だけをまとめてみると,

ラテン語の直説法現在時制能動態の人称語尾
  単数 複数
一人称 -ō 「私は」  -mus 「私達は」
二人称 -s 「君は」 -tis 「君達は」
三人称 -t 「彼(彼女,それ)は」 -nt 「彼ら(彼女ら,それら)は」

となります.この語尾を,人称語尾といいます.

 人によっては,例えば ō だけで「私は」という意味になりそうな気がするかもしれませんが,これは語尾として使われる時に限って「私は」を表すことができます.切り離されると,人称語尾は無意味な音か,音の連続と化します.-s も -t も -nt も,単独では「君は」「彼は」「彼らは」を表すどころか,音としてすら独立することはできません.動詞の基本的意味をになう,vidē- あるいは vide- の後についた時にのみ,これらの語尾は,その動詞の人称を表すことができる文法形式なのです.それどころか,単数と複数の間にも,殆ど共通点はありません.三人称のみ,なんとなく単数 -t と複数 -nt の比較から,n が複数らしきものを予測させますが,それは一人称・二人称の単複には見いだされません.それぞれが無関係に独自の形式で,「私は」「君は」「彼(彼女,それ)は」 「我々は」「君達は」「彼ら(彼女ら,それら)は」を表しているのです.
 その一方で,この人称語尾を取った形が,主語を省略した日本語の「見る」にあたるかというと,そうではなく,vidē という形は,「君は見よ」という,二人称が主語になる命令形になります.このように,ラテン語の動詞は,常にその主語の人称を表し,二人称への命令を除き,常に人称語尾をもちます.主語の人称をあらわさない形は,基本的に動詞として使われる場合には,存在しません.非人称動詞ですら,三人称単数の形をとります.動詞の名詞的用法(たとえば 現在時制能動態不定詞vidēre「持つこと」)などは,主語の人称を表しませんが,その場合も,それ独自の語尾を持ちます.
 ちなみに,このように,あたかも一部を折り曲げて様々な形をつくるように,語の一部で取り外しのきかない部分を変化させることで,人称などの文法的意味を表すことを屈折といい,そのような語尾を屈折語尾といいます.

 さて,もう一回,表にもどりましょう.
第2変化動詞 videō「見る」直説法現在時制能動態
  単数 複数
一人称 videō 「私は見る」  vidēmus 「私達は見る」
二人称 vidēs 「君は見る」 vidētis 「君達は見る」
三人称 videt 「彼(彼女,それ)は見る」 vident 「彼ら(彼女ら,それら)は見る」

 人称語尾を取り除いた形は,この部分を語幹と呼びます(もちろん二人称命令法以外に独立しては存在はできませんが).上の vidē- ないし vide- は,現在時制の形を作る語幹なので,現在語幹といいます.この語幹のうち,赤くマーキングした部分,vidē- ないしは vide- の -ē- あるいは -e- の部分ですが,この部分は幹末母音と呼ばれます.この幹末母音が,ラテン語の規則動詞の 5 つのタイプを決める特徴です.

 第2変化動詞は,-ē- の幹末母音が特徴になります(第2変化に属する他の動詞では,rīdeō「笑う」,fleō「泣く」など).そのため,ē 幹動詞とも呼ばれます.他の変化では,例えば,第4変化動詞では,ī の語幹末母音が特徴になります(audiō「聞く」).
 この -ē- の幹末母音は,続く人称語尾の音によって短縮して,videō, videt, vident では短母音の -e- が出てくるのです.実はもともとは,*vidēō, *vidēs, *vidēt ... *vidēnt (*は資料として残っていなくても,推定によって得られる語形につけます)のように,全て長母音でした(実は動詞によって違うものも混じっているのですが,とりあえずこうしておきます).この母音が短くなる条件は……

1. 母音の前の長母音は短母音化.(公式:Ṽ > / _V)
 これにより,一人称単数は *vidēō > videō「私は見る」となります.

2. 語末の -r -l -m -t の前では,長母音は短母音化.(公式:Ṽ > / _(r, l, m, t)# (# は語境界))
 これにより,三人称単数は *vidēt > videt (二人称複数 vidētis は語末でないので短くならない)となります.ただし,この変化が起こったのは比較的あたらしく,古ラテン期の詩では長いままのことがあります.

3. 流音 (r l) 鼻音 (m n) 半母音 (i [j] v) + 子音の前で,長母音は短母音化.前述のオストホフの法則です.(公式:Ṽ > / _(r, l, m, n, i[j], v)C)
 これにより,三人称複数は *vidēnt > vident となります.

 この幹末母音 -ē- は何かということになると, videō の場合は,古くさかのぼるなら,語幹の部分は *wid-ē-je/o- (e/o は語尾によって変る,幹母音と呼ばれる物です)という形で,ある静止状態に入ることを示す後接辞 -ē- と単純現在を表す後接辞 -je/o- が融合したもの(*-ē-je/o- で,母音間の j は後に落ちて融合して -ē- になる)だったようで,その前の vid- (*wid-)の部分(語の基本的な意味を担う部分なので語根といいます)に「見る」の意味がありました.しかし,ē 幹動詞の ē にはこれ以外にも幾つかの由来によるものがあります.例えば fleō「泣く」では,語根(*flē-)に直接人称語尾がついており,語根の母音が幹末母音です.出自は複数ありますが,最終的にそれらが ē 幹動詞というカテゴリーにまとまったのです.
 元々の ē の部分の意味は,語の意味内容に何らかの反映はされているかもしれませんが,古典ラテン語の段階になると,語幹全体として意味をなしていて,ē の意味を認識することはラテン語話者でもできなかったと思います.

 さて,理論はこの辺で十分だと思います.実際の動詞の変化を覚えましょう.

第2変化動詞 videō「見る」直説法現在能動態
  単数 複数
一人称 videō 「私は見る」  vidēmus 「私達は見る」
二人称 vidēs 「君は見る」 vidētis 「君達は見る」
三人称 videt 「彼(彼女,それ)は見る」 vident 「彼ら(彼女ら,それら)は見る」


 まずは変化を長短まで正確に覚えて下さい.上の表を見ないで暗唱できて,下の空欄に,表を見ないでスムーズにタイピングできればほぼ大丈夫だと思います.タイピングの時には,できれば長音記号を付けて下さい.長音記号は打ちにくいですから(U.S.Extended のキーボードにはありますが),ラテン語式のアペクスにならって á é í ó ú でも,日本語のローマ字の長母音につかう曲アクセント â ê î ô û でもいいと思います.リセットで打ち込んだものが消えるので,何度でも消してタイプ練習してみてください.

動詞変化表

     単数複数
一人称 
二人称 
三人称 
  
 
 

      


 同様の変化をする動詞は,次のようなものです.これを変化させて,上の変化表に打ち込んでみてください.残念ながらワンタッチで答え合わせはできませんが,カーソルをあわせると解答がでます.

  taceō「黙る」 
  rīdeō「笑う」
  fleō「泣く」
  valeō「元気である」


最後に簡単な練習問題.ラテン語を日本語に,日本語はラテン語にしてみてください.ついでに動詞以外の単語 nôn を覚えましょう.

  nōn「……ない(英語の not)」 例:nōn valēs. 君は元気ではない.(位置は動詞の前において下さい)

これをやっている時に,変化表を見てしまうようではだめで,変化表なしで一気にできるようになるまで,一生懸命変化表を練習してからやって下さい.練習では全部「見ている」のようにしていますが,「見る」でもどちらでも大丈夫です.空欄に解答を書いて下さい.カーソルを問題文の上におけば解答が出てきます.リセットで全部消えます.

vidēs.    
vidēmus.    
nōn vident.    
videō.    
私は見ていない.    
君達は見ている.    
tacēmus.    
tacet.    
nōn taceō.    
私達は黙っていない.    
君は黙っている.    
君達は黙っている.    
rīdēmus.    
nōn rīdent.    
rīdētis.    
君は笑っている.    
彼らは笑っている.    
私達は笑っていない.    
valeō.    
nōn valent.    
valētis.    
彼は元気である.    
君は元気である.    
私達は元気ではない.    
flētis.    
nōn fleō.    
flēs.    
彼は泣いていない.    
彼らは泣いている.    
flēmus.    
nōn valent.    
tacētis.    
vidēmus.    
君は見ている.    
彼らは笑っている.    
私達は元気である.    
君たちは黙っていない.    

      



 数は多いですが,難しくはないとおもいます.難しいと思ったら,表のほうの暗記をし直して下さい.

 最後にキケローから極短いですが一文.

  Quid tacēs? なぜお前(カティリーナ)は黙っているのか?(キケロー『カティリーナ弾劾』1.1)

   語句:quid [疑問詞]「なぜ?」


 なお,単語ですが,変化ともども,なるべく暗記して下さい.ラテン語は名詞も動詞も変化が大変なので,つい単語のほうの暗記を怠りがちですが,実際にラテン語の本文を読み始める時には,辞書はいやでも沢山ひくようになります.その時に全く知らない単語ばかり大量に辞書を引くことになるようだと,意味がわかって,次の単語に行くころには,既に忘れているという状態になりがちです.できれば,テクストを読み始める時には,できれば6-7割はすでに知っている単語という状態にしたいものですね.幸いラテン語の語彙数は少ないです.Oxford English Dictionary が 20冊で,同じ方針で作られた Oxford Latin Dictionary が現在2巻本ですから,大雑把に10分の1でしょう.入門が終わるまでに語彙が2000程度あれば,相当楽になるはずです.このブログでも,いずれ基礎語彙をまとめようと思っています.

 まあこんな調子でやっていると,ラテン語入門だけで300回は超えそうですね…….しばらくは広告がでないで済みそうです.




【2013/10/18 19:30】 ラテン語入門 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) | 記事修正

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