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ラテン語入門 13 文字と発音など(13) 付記: 複数子音の前の母音の長短

 発音についてもうちょっと書いておくことが今更みつかりました.ただ,入門ですぐ読む必要もないので,面倒なら飛ばしてください.

 自動的に母音の長短が決まって来るケースがいくつかあります.入門書では大抵長音記号がついているので,長短を気にせずに勉強できないこともないのですが,いずれテキストを読む際には,長音記号なしで読むことになるので,今のうちから語彙などとともに,覚えておくと,あとから色々役に立ちます.

 実際の長短のどちらを採用すればいいか,判断が難しいところもあります.ラテン語の音の長短を確認する際に大きな手がかりとなるのは,音節の長短による韻律をもった詩です.これによって,音節が短い部分と,母音に続く子音が1つ以下のところは,明確に母音の長短がわかるのですが,母音に子音が二つ以上続く場合には,母音が短くても長くても「位置(positiō)によって長い」ことになるので,長短の判断がわからなくなります.
 そのような場合には,古代の文法家の記述・碑文などの長母音表記法(AA, Á, I, EI, OU)など(ラテン語入門 3 参照)に頼ることになります.あるいは比較言語学的に,語源とラテン語に起こったと思われる母音の長短にかかわる音変化,それからロマンス語との比較から推測することになります.もちろん,正反対の事実を互いに示していたりする場合には,論議の対象となってきます(下の 5 の例を参照).

 このように,複数子音の前の母音については,ラテン語では問題になることが多々あるのですが,その一方で,この部分が「位置によって長い」ので,長短の判断をしないで,長音記号を一切付けないという辞書が結構あります.例えば Oxford Latin Dictionary では proficīscor は proficiscor, īnfēlīx を infēlix という見出しにしています.意味と用法の記述に集中するためだとは思いますが,ラテン語の言語の実体を記述するのが辞書だとすると,残念な処置ではあると思います.初学者用の手頃な辞書などでも,このような場合があるので,もしそういう辞書を使うとすれば,入門の段階から使いはじめて,機会があるごとに,長短の記述を付けてゆくのがいいと思います.

 前置きがやたらと長くなりましたが,当面の長母音・短母音の判断につかえる,子音連続のパターンがいくつかあります(これを書きたかっただけですが).ここではいくつか選んでここでは書いておくことにします.

1. 母音に -ns, -nf, -nct, -nx が続く時には,その母音は長くなります.
公式: V > Ṽ / _ns, _nf, _nct, _nx

  īnfēlīx「不幸な」  cōnficiō「完成させる」  īnsula「島」  cōnsul「執政官」
  sānctus「神聖な」 iūnxī「つないだ(iungō の完了形)

例外: lynx「山猫」の y は短いですが,これは外来語.


2. 動詞の -āscō, -ēscō, -īscō, -īscor の-sc の前の母音は長い.大体 -scō は nōscō「知る」,pāscor「放牧する」などの様に長いですが,pŏscō「要求する」は短い.
  collabāscō 「ぐらつき始める」 conticēscō / conticīscō 「黙る」 proficīscor 「出発する」


3. gn の前の母音は長母音化しますが,口語では短い.
公式: V > Ṽ / _gn [ɲn] (ただし正統的ラテン語で)

  māgnus sīgnum (ラテン語入門10参照)


4. 流音(r l) 鼻音(m n) 半母音(i[j] v) + 子音の前の母音は短い(オストホフの法則).ただし,1 のパターンを除く.長短に疑問が残るものもあります.これについては下記の 5 も参照.
公式: V > / _(r, l, m, n, i[j], v) C
(HTML では大文字 V に短音記号がつかないので,無理矢理スタイルをいじって で表しています.フォントによってはずれるかもしれませんが……)

  ā 幹動詞 amănt「彼らは愛する」 amăndus「愛されるべき」vs. amās「君は愛する」
  amāns「愛している」現在分詞単数主格 (1 の規則参照) vs. amăntis 現在分詞単数属格
  vĕntus「風」 kalĕndae「ついたち」


5. 上のオストホフの法則による短母音化の規則が働くはずのケースで,長短の揺らぎがみられるもの.

 母音の後に r + 子音が続く場合に,オストホフの法則で短母音化するはずの母音に,散発的に長母音の例が見られます.ロマンス語との対比でも,長かったり短かったりしています.特定の社会集団でのみ長母音化が起こったと考えられているようです.辞書も迷っているようです.

  fīrmus / fĭrmus「しっかりした」 (イタリア語 fermo は短母音 ĭ を示し, 碑文では FIRMI の I longa で長母音が示されているものがある.語源的には短母音)
  fōrma / fŏrma「姿」(イタリア語 forma は半狭の o なので長母音.語源的にはおそらく短母音)

 それ以外でも……

  nūntius / nŭntius「使者」 ūndexim / ŭndecim「11」
   どちらもロマンス語との比較では短母音.語源的には長母音.



【2013/10/16 14:42】 ラテン語入門 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) | 記事修正

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