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ラテン語入門 11 文字と発音など(11) 音節の長短とアクセント規則

 いよいよ文字と発音についても,ほとんど最後のアクセント規則です.

 ラテン語のアクセントがどのようなものだったかについては,諸説あります.一つは高低アクセント,つまりアクセントのある音節をない音節より音程的に高い音にする,いわば音楽的アクセントで,日本語と同じものです.もう一つは,強弱アクセント,つまりアクセントのある音節を強い音にする,現代の欧米語で普通のアクセントです.それとその間の折衷案です.
 高低アクセント説も強弱アクセント説もどちらもそれなりに根拠はあるようで,おそらく高低に強弱が加わったもだったという折衷案的な考え方が個人的には正しそうと思います.ラテン語の子孫のロマンス語はすでに強弱アクセントですが,ひょっとすると古典期には正統的ラテン語と口語ラテン語ではアクセントのタイプが異なっていたということもあったかもしれません.もし実際に発音するとすれば,日本語式にアクセントのある音節を高く発音しつつ,強勢を置くという感じがいいのではないかと思います.


 ラテン語のアクセント規則は次のようにまとめられます.

 ラテン語のアクセントは後ろから三つ目までにしか来ません.特に重要なのは後ろから二つ目の音節で,パエヌルティマ(paenultima「殆ど(paene)最後(ultima)」)と呼ばれます.このパエヌルティマ音節の長短により,アクセントの位置が決まるので,ラテン語のアクセントの規則はパエヌルティマの法則と呼ばれます.最後の音節はウルティマ(ultima「一番最後」),後ろから三番目はアンテパエヌルティマ(antepaenultima「パエヌルティマ(paenultima)の前(ante)」)と呼ばれます.

 アクセントを見いだす手順はこんな感じです.

1. まず後ろから三つ目までの母音をチェックします.その母音のうち,最後の母音がウルティマの母音,後ろから二番目の母音がパエヌルティマの母音,後ろから三番目の母音がアンテパエヌルティマの母音になります.
 それぞれに,最後の母音ウルティマは 1,次のパエヌルティマは 2,その前のアンテパエヌルティマは 3 と,数字をふっていきます(それ以上はアクセントと無関係なので付ける必要はないです).dēmōnstrō「示す」だと,dē₃mō₂nstrō₁ という感じですね.
 簡単でしょうが,注意しなければいけないのは,二重母音 ae oe ei ui au eu は,前述のように,一つの長母音ですし,二つ母音が続いていても,二重母音の組み合わせでないものは別々の母音です.それから子音として扱われる i [j] も注意(以下ではその場合には ( ) 内に示しています).また,qu, su [sᵂ], ngu [ŋgᵂ]の u も母音ではないので注意.
 以下の単語でやってみると……

  iam (jam)「今や」 casa「家」 beātus「恵まれた」 animal「動物」
  amīcus「友人」 frūmentum「穀物」 tunc「その時」 cōnfirmō「断言する」
  abstineō「遠ざける」 tenebrae「暗闇」  obsecrō「懇願する」  pulcher「綺麗な」 
  supra「上に」 Periclēs「ペリクレース」 cōnsuētus「慣れた」
  concilium「集会」 collēga「同僚」 Pompeius (Pompejjus)「ポンペイユス」
  colloquor「話し合う」 maiestās (majjestās)「威厳」 pōns「橋」

 こんな感じになるでしょうか.

  ia₁m (jam)「今や」 ca₂sa₁「家」 be₃ā₂tu₁s「恵まれた」 a₃ni₂ma₁l「動物」
  a₃mī₂cu₁s「友人」 frū₃me₂ntu₁m「穀物」 tu₁nc「その時」 cō₃nfi₂rmō₁「断言する」
  absti₃ne₂ō₁「遠ざける」 te₃ne₂brae₁「暗闇」 o₃bse₂crō₁「懇願する」 pu₂lche₁r「綺麗な」
  su₂pra₁「上に」 Pe₃ri₂clē₁s「ペリクレース」 cō₃nsuē₂tu₁s「慣れた」
  conci₃li₂u₁m「集会」 co₃llē₂ga₁「同僚」 Po₃mpe₂iu₁s (Pompejjus)「ポンペイユス」
  co₃llo₂quo₁r「話し合う」 maiestās (majjestās)「威厳」 pō₁ns「橋」

2. さて,ここからが具体的なアクセントの位置になります.

(1) 1 音節からなる語(上で数字が 1 しかつかないもの)は,その語にアクセント.

   iá₁m (jam)「今や」 tú₁nc「その時」 pṓ₁ns「橋」

(2) 2 音節からなる語(上で数字が 2 までしかつかないもの)は,2 がついている母音,つまり先頭の母音にアクセント.

   cá₂sa₁「家」 sú₂pra₁「上に」

(3) 3 音節以上からなる語(上で数字が 3 までつくもの)については,まず 2 の数字がついている母音を見ます.この母音をもつ音節が長ければ,そこにアクセントが来ます.

 (a) 2 の数字がついている母音が長母音か二重母音であれば,その音節は長いので,そこにアクセント.(フォントによってはアクセントが見にくいかもしれませんが,2 の母音の上にアクセントがあります.)

   be₃ā́₂tu₁s「恵まれた」 a₃mī́₂cu₁s「友人」 cō₃nsuḗ₂tu₁s「慣れた」 co₃llḗ₂ga₁「同僚」

 (b) 2 の数字がついている母音が短母音であっても,後ろに二つ以上の子音が続く場合(母音間 i [jj],x, z も2子音分)には,その音節は「位置(positio)によって長い」とされ,そこにアクセント.ただし,下の(d)のケースを除く.以下では二つ続く子音を太字にします.この場合,母音が長く発音されるわけではないので注意.

   frū₃mé₂ntu₁m「穀物」(フルーメントゥム.フルーメーントゥムに発音しないように!)
   cō₃nfí₂rmō₁「断言する」 ma₃ié₂stā₁s (majjestās)「威厳」
   Po₃mpé₂iu₁s (Pompejjus)「ポンペイユス」(母音間の i は[jj] !)

 (c) 2 の数字がついている母音が短母音で,後ろに子音が続かないか,一つしか続かない場合には,その音節は「位置(positiō)」を作らず,短いことになります.この場合,アクセントは 3 のついている,アンテパエヌルティマにきます.
    
   á₃ni₂ma₁l「動物」 abstí₃ne₂ō₁「遠ざける」 có₃llo₂quo₁r「話し合う」(qu は子音一つ分)

 (d) 2 の数字がついている母音の後に,二つ以上の子音が続く場合でも,「閉鎖音(p, t, c, b, d, g) + 流音(r, l)」の組み合わせ(muta cum liquida「流音つき黙音(=閉鎖音)」)の場合には,「位置(positio)」を作らずに,その音節は短いことになります.アクセントは 3 のついている,アンテパエヌルティマになります.

   té₃ne₂brae₁「暗闇」 ó₃bse₂crō₁「懇願する」 Pé₃ri₂clē₁s「ペリクレース」

注:この「位置(positiō)によって長い」というのは,もともとはギリシア語では 「合意θέσιςによって複数子音の前の母音が長い」,と言われていたのが,ラテン文法家によりθέσιςの別の意味の「位置」と間違えられたためにできた用語です.
    

3. ただし,このアクセント規則には,幾つか例外があります.

例外1. -que「そして」, -ve「あるいは」, -ne「なのか?」 など,アクセントを持たず,直前の語にもたれてようやく存在する非自立語であるエンクリティックがつく場合,上の規則と無関係に,自動的にエンクリティックの直前にアクセントが移動します.

  árma virúmque「武器と人とを」(ウェルギリウス『アエネーイス』1巻冒頭)
  fī́lius fīliáque「息子と娘」
  bóna maláve「良き事々あるいは悪い事々」
  vidḗsne?「君は見ないのか?」

(エンクリティック(enclitc)という用語は,古くは後倚辞(こういじ),最近は前接語,後接語(一体どっちだ!)など,めちゃくちゃに訳されているので,enclitic の音転写のままで使います)

ただし,-que がつくもので,「そして」の意味を失って,単語の一部となったものは規則通りのアクセント.

  itáque「そしてそのように」(ita「そのように」+ que「そして」)  ítaque「したがって」(一単語)

例外2. 語末にあるべき母音が落ちた場合(アポコペーと言います)や,語末の母音が融合した場合,以前のアクセントの場所を保持します.この場合,最後の音節ウルティマにアクセントが来ることも起こりえます.

  illī́c「あそこに」(本来 *illī́ce で,末尾の -e がアポコペーで落ちたもの(*は推定形を示します))
  vidḗn? 「君は見ないのか?」(上の vidḗsne? で,末尾の -e がアポコペーで落ちたもの)
  Vergílī「ウェルギリウスの」(一見 Vérgilī になりそうですが,Vergíliī の -iī が融合したもの)

 その他,詳しく調べると色々な例外が古今の文法家によってあげられているようです.これについては Leumann: pp. 238-242 などにあげられています(まとめるというよりは,様々な例を挙げてゆくという形なので,読みにくいです).fenestra などはエトルリア語由来で,そのアクセントを残して fénestra (上の規則通りならパエヌルティマの母音のあとに3つ子音が続くので fenéstra のはず)にだったらしい,など,ありそうなものから疑わしいものまで色々混乱しそうな例が並んでいて,うかうか朗読などできなくなりそうです(笑).このあたりはもはや研究対象でしょうね.
 Kühner-Holzweissig: pp. 239-240 では,長母音のアクセントに,普通のアクセントに加えて,一旦音をあげてから下げる曲アクセントまで出て来ています.多分ギリシア語の文法家のギリシア語のアクセントの記述をそのまま取り入れたラテン文法家の説を元にしているのだと思いますが,現在これが本当だと思っている人はいないかと思います(本当だとすると明らかにラテン語は高低アクセントということになりますが).

 これでラテン語の文字と発音については大体全部書いたと思います.あとはもう少しだけ細々としたことなどですね.なお,アクセント規則のところでは綴り分けについても書く必要があるのですが,これはこれでちょっと問題があるので,いずれまた.




【2013/10/14 21:12】 ラテン語入門 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) | 記事修正

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