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ラテン語入門 10 文字と発音など(10) 子音(6) qu, ngu, su, gn, x, z, 二重子音など

 最後といいながらまだ残ってました…….ここでは子音群あるいは単独の文字で子音群を表すものを見て行きます.

 唇軟口蓋音半母音(接近音)の v の音が,子音の発音の直後(あるいは同時?)に来るものがあります.

 [k] の直後に v が続く [kᵂ] の場合,qu の綴りが用いられます(qv には普通しない).カタカナを付けるなら,qua クヮ, qui クィ, quu クゥ, que クェ, quo クォのようになるでしょうか.文字の上では二つの音ですが,これは一つの子音になります.例をあげると……

  aqua 「水」アクヮ quiēs「休息」クィエース loquor「話す」ロクォル
  aequus「公平な」アエクゥウス queror「不平をいう」クェロル

 [g] の直後に v が続く時は,必ずその直前に n の音が入り,ngu の形になります.この場合,n の音は g の音に同化して,going の ng のようになるので,ngu の発音記号は [ŋgᵂ] になります.ngu は子音二つ分に勘定します.あまり沢山はないので,実例でみたほうが早いでしょう.

  lingua「舌,言葉」リングヮ sanguis「血」サングィス languidus「ぐったりした」ラングィドゥス
  pinguis「太った」ピングィス

もちろん母音が続く場合にのみ,ngu は [ŋgᵂ] になります.そうでない場合,例えば singulī「それぞれの」シングリーの u は普通の母音です.

 [s] の直後に v が続く [sᵂ] も,su のように綴り,これも子音1個に相当します.ただし,もちろん母音が続く場合にのみです.また,母音が続いてもすべての su が [sᵂ] になるわけではないので,注意してください(例えば suus「自分の」スウス).そもそも実例は僅かしかありません.

  suāvis「甘い」スヮーウィス cōnsuēscō「慣れる」コーンスェースコー
  Suētōnius「スェートーニウス(歴史家の名)」


 gn の音の連続は,注意が必要です.この子音連続は,碑文でしばしば ngn と表記されており,最初の g は高口蓋鼻音 [ɲ] になっていて,[ɲn] のように発音されていたようです.その一方で,この子音連続の前では,母音が長母音化されるのが正統的ラテン語です.たとえば signum「印」[sīɲnum] シーングヌムというぐあいです.碑文で SIGNUM SEIGNUM のように長母音を示す表記が取られているものがあり,長母音になってることがわかりますが,この語に縮小辞のついた形 sigillum は短いままなので,gn にの前に長母音化の規則が働いていることがわかります.しかしながら,ロマンス語との比較ではこの部分は短い(イタリア語 segno.もし長ければ signo になるはず)はずで,おそらく一旦長母音化したのちに,ロマンス語の先祖になる口語のラテン語では短母音化したと考えられています.つまり正統的ラテン語は sīgnum, 口語で signum ということになります.この入門では,このような場合には長母音はつけないことにします(Leumann:p.113 にならう).辞書の見出しでは,必ずしも gn の前の長短の統一がとれているとは限らないので,注意してください.

   ignis「火」イ(ー)ングニス pugna「戦い」プ(ー)ングナ magnus「大きい」マ(ー)ングヌス

元々語源的に長母音であった rēgnum「王国」レーングヌムはそのまま長音記号をつけます.


 一つの文字で,二つ分の子音を表すものが二つあります.
 x は [ks] の子音連続です.もちろん,二子音分に勘定されます.

  pāx「平和」パークス rixa「けんか」リクサ exiguus「僅かな」エクスィグウス
  uxor「妻」ウクソル

 z は外来語に用いられる文字で,[dz] の音です.日本語のザジズゼゾの音です.音声学では破擦音と呼ばれますが,これも二つの子音と見なします.(詳しくは下に補足)

  gaza「宝物」ガザ zōna「帯」ゾーナ zephyrus「西風」ゼピュルス


 同じ子音が連続している場合は,日本語の促音などのようになります.ph, th, ch は pph, tth, cch と表記され,qu の場合は cqu になります.

  mittō「送る」ミットー tollō「持ち上げる」トッロー currus「車」クッルス 
  quiddam「何かあるもの」クィッダム 
  nummus「貨幣」ヌンムス nōnne「…ではないか?」ノーンネ
  bracchium「腕」ブラッキウム Sapphō「サッポー(レスボス島の女流詩人)」サップフオー
  quicquam「何も」クィックヮム

 次でようやくアクセント規則など.



補足:z の発音について

 コメントで z の文字の実際の発音について,[dz] の破擦音と断ずるのは危険とのご指摘いただきました.どうもありがとうございます.資料などあまりないので,少しだけですが,調べ直してみました.これは実際,ご指摘の通りで,Leumann でも明快に答えは避けたような印象がある記述でした.すくなくとも Leumann がはっきり書いているところをまとめると(p.11 の特に Zusätze a, さらに簡単に p.19),語頭(例えば zōna 「帯,地帯」)と,語中 zb, zd, zm では,有声の摩擦音 [z] (たとえば Zmaragdus「エメラルド」Lezbia「レズビア」など,これらにはSmaragdus, Lesbia と s による表記もあって,現代のテクストでは s のほうが普通だと思います)としています.Leumann は母音間では [dz] の可能性があると(p.19)といっていますが,そうでない可能性については多分 [zz] の可能性を言っているのでしょう.とすると,概ね [z] で,母音間 [zz] とすると,むしろ有声摩擦音として記述すべきかもしれません.しかし,母音間の z が2子音分 [zz] というのは抵抗がないわけではないのと,ウンブリア語,オスク語では z は [ts] の音に用いられていたことを考えると,破擦音の可能性もあるかなとも思います.
 その他の専門的な議論を目にしていませんし,それかラテン語話者が耳にするギリシア語の z の発音の可能性についての議論もよくしらないので,何とも言えませんが,個人的な想像をいえば,ラテン語話者は,z の音については,日本語話者が日本語以外の言語で耳にする有声摩擦音 [z] に対するのと同様に,これを [z] にも [dz] にもとっていたのではないか,さらに言えば,ひょっとして区別もつかなかったんじゃないかと思います.いずれにしても,2子音分ということを考えると,初歩段階ではとりあえず(間違いかもしれませんが),[dz] としておいていいのではないかと思います.まあこのブログでわざわざラテン語文法を勉強するという奇特な方々は,ご自身でいずれ Leumann などを読まれると思います(僕の責任放棄ですが……).


【2013/10/13 12:17】 ラテン語入門 | TRACKBACK(0) | COMMENT(1) | 記事修正

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