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ラテン語入門 3 文字と発音など(3) 付記:ラテン語内での長母音記述の試み

 まあ入門で必要な知識ではありませんが,歴史研究や比較言語学をやりたい方など,将来的にラテン語碑文を読むことになるはずの方々には多少有益ではあるかもしれないので…….関係ないという方は飛ばしていいとおもいます.

 以上で見たように,ラテン語では長母音と短母音の区別があり,長短で意味の違いを生み出しうるのですが,ラテン語としては普通は長短を区別して記述する方法は一般的にはありませんでした.
 しかしながら,これは全くその試みがなされなかったというわけでもなく,長母音を表すための幾つかの方法は試みられていました.ただ,いずれも必ずしもすべての長母音を明確に示すというものではなかったようです.このあたりは,Leumann, Lateinische Laut- und Formenlehre. Beck: München, 1977: p. 12-14にまとまっていて,読める方はそれを見るほうが面白いと思います.これを適宜まとめると:

(1) ā ē ū については,aa ee uu のように母音を重ねることで,長母音を表す(紀元前140-75).AARA = āra「祭壇」ただし,他の母音については区別しなかったようですし,区別のある母音についてもすべて付けられるというわけでもないようです.例えば PAASTORES = pāstōrēs のように.

(2) 古ラテン語の二重母音から生じた長母音について,元の二重母音を長母音の代わりに使う.日本語の「おうさま(王様)を[o:sama]の発音に使うようなものでしょうか.
 ラテン語では古ラテン期の二重母音 ou が長母音 ū に変りますが,変化してしまった後にもしばらく ou が長母音 ū の表記に使われていました.紀元前100年ぐらいには廃れたようです.同様に ei も ī に変りますが,この ei もそのまま長母音 ī につかう.さらに,ei から生じた ī だけでなく,もともと ī だったものにもこれが適用されます.後者のほうがより広く使われたようです.こちらはガッルスパピュロス(http://classics.uc.edu/~parker/paleography%20files/gallus.html,大分昔のブログ記事http://litterae.blog8.fc2.com/blog-entry-16.html)の5行目fixa legam spolieis deivitiora tueis=fixa legam spoliīs dīvitiora tuīs (すべて古ラテン ei から生じた ī ですが)で使われています(もし本物であればの話ですが).

(3) ī について.ほかの文字より少し長めに I を書く.I longa「長い I」と呼ばれます.FELICI のような感じ.

(4) アクセント記号( ́)あるいはコンマ(,)のような印を文字の上につける,アペクス(apex「先端」)と呼ばれるもの.つまり,Á É Ó Ú のような形で,長母音を表します(なお Í はまれで,これには「長い I」が使われていたようです).クィーンティリアーヌスによって,乱用せずに,アクセントの違いで意味の生じる同じ字面の単語の区別にのみ限定して使うことが勧められています(1.7.2).

 まあ網羅的でもなく,常時使われて続けていたわけでもないですが,それでも,こういったラテン語自体でのラテン語の長短表記が残っている資料の価値が,非常に高いのはいうまでもありません.特に,子音が二つ以上続く場合の母音の長短(これについてはまた後から触れることになります)は,こういう記号がないとわからなかったりするようです.


【2013/10/10 23:19】 ラテン語入門 | TRACKBACK(0) | COMMENT(0) | 記事修正

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